ギリシア版『雪女』!?うっかりしゃべった男アンキセス

神話や昔話というものは、細かい設定や名前などに多少の違いが見られるものも、似たようなものがどこの国にもあります。ギリシア神話も例外ではなく、アンキセスという男の話は、日本の「雪女」などとよく似ているそうです。

雪女で一番有名なのが「会った日のことを誰にもしゃべるな」と言われた男が、事件から数年後に結婚した女にうっかりしゃべってしまい、妻だった雪女が男のもとを去ってしまうという話ですが、ギリシアの場合はどうなのでしょうか。

美の神アプロディテに見初められた男アンキセス

アンキセスは、ホメロスの書いた『イリアス』に出てくる王イーロス、その娘のテミステーとカピュスという男の間に生まれた美しい男です。彼はイーデー山で放牧しているところをアプロディテに見初められました。

そしてアンキセスを怖がらせないよう、彼女が人間の姿となり迫るとふたりは身体を重ね、結果としてアイネイアスという子をもうけたそうです。以上で終わりならば何の問題もありませんが、話にはまだ続きがあります。

実は彼との別れ際に、アプロディテはとある約束を取りつけていきました。内容は「決して自分と交わり、子を産ませたことをひとに言ってはならない」というものです。アンキセスは言われたことを「わかった」と承諾します。

酒は飲んでも飲まれるな!口がすべってしまった結果起こったこととは?

ですが人間とは、ついうっかり口がすべってしまうものです。ある酒の席でずいぶんと酔っていた彼は、つい「アプロディテに子を産ませた」と周囲の人々に話してしまいました。当然、神々にバレたのでただでは済みません。

約束を破ったことに激怒した全能の神ゼウスは、アンキセスに向けて雷を落とし足を不自由にしたとも、失明させたとも言われています。彼は後に息子と一緒に船でイタリアに向かう途中、シチリア島で命を落としたそうです。

正体を隠して夫婦になり子を産むも、正体がバレた瞬間に立ち去ったり、ひとに話して罰を受けたりすると点は、日本の『雪女』ととてもよく似ています。しかし仕置きするのがゼウスという点は、いかにもギリシア風です。

実はすべてゼウスの思惑通り!?計画されたふたりの恋

上記の話だけ聞くと、約束を守らなかったせいで罰せられたのですから、アンキセスにも非はあるように思えるでしょう。しかし、実は話にはさらに続きがあり、裏事情を知ると彼に同情する気持ちを多くの人が抱くはずです。

もともとアンキセスに恋をしたのはアプロディテですが、実は彼女が地上の男にほれたのは、ゼウスの力によってそうなるよう仕向けられたせいでした。つまりふたりが恋仲になったこと自体、ゼウスの計画だったということです。

要するにアンキセスは、ゼウスの都合でアプロディテと関係をもち、ゼウスの気分で雷を落とされたということになります。すべては全能の神による演出であり、アンキセスはゼウスの手のひらで踊っていただけと言えるでしょう。