悲劇の王女カッサンドラ

ゼウスを始め、神々に愛される人間の女性はギリシア神話に数多く登場します。
ほとんどは神の子を産み、その後は平穏に暮らすのですが、今回紹介するカッサンドラは例外中の例外。
何しろ、その名が「不吉、不運」の代名詞となっているほどです。

アポロンの逆恨み

カッサンドラはイーリオス(トロイア)最後の王、プリアモスの19人の子どものうちの一人。兄に英雄ヘクトールやトロイア戦争のきっかけを作ったパリスがいます。 彼女はアポロンに愛され、百発百中の予言の力を授かりました。
ところが、その途端アポロンが自分に飽きて去っていく未来が見えたために、その愛を受け入れるのを拒みました。 当然アポロンは憤慨し、カッサンドラの予言を誰も信じなくなる呪いをかけます。
自分が与えた能力ゆえに振られるとは、アポロンに同情の余地がなくはないのですが、これはちょっと男らしくない逆恨みですね。

カッサンドラとラオコーン

さて、アポロンの思惑どおり、カッサンドラはさまざまな予言をしますが、そのどれ一つとして耳を傾けられることはありませんでした。
兄パリスがスパルタ王妃ヘレネを連れ帰った時、ギリシア方が置いていった木馬を市民がイーリオス市内に運び入れようとした時、どれもが破滅に繋がると警告したにも関わらず、です。
ちなみに、この有名な「トロイの木馬」は、中にギリシア兵が潜んでいて、イーリオス市民が寝静まった頃に街を襲い、戦争の勝敗を決することになるのですが、もう一人、注意を喚起した者がいました。 神官ラオコーンは木馬を不審に思い、市民たちを諌めましたが、これがギリシアに加担するアテナの怒りを買うことになります。
アテナはラオコーンの両目を潰し、海から大蛇の怪物を召喚して2人の息子ともども絞め殺させてしまいました。
また、この怪物を送りこんだのはアポロンという説もあります。つくづくイーリオスはアポロンと相性がよくなかったのでしょう。

カッサンドラを襲った不幸の数々とは

イーリオスが陥落すると、市民は略奪や暴行の対象とされたばかりか、奴隷として連れ去られました。
王女であるカッサンドラも例外ではありません。彼女はアテナの神殿に隠れていましたが、ギリシアの小アイアース(同名の大アイアースがいるためこのように区別して呼ばれます)に凌辱されてしまいます。 小アイアースは神をも恐れぬ不遜な人物とされており、女神の神殿内で女性に乱暴をすることも何とも思わなかったようです。
その上アガメムノーンの戦利品としてミュケーナイに無理やり連れて行かれた挙句、アガメムノーンともども妻クリュタイムネストラと愛人アイギストスによって殺されてしまいました。

彼女の不幸は、アポロンに愛されたことでしょうか、それとも予言の力を与えられたことでしょうか。
もしアポロンが彼女をいずれ捨てる未来が見えたとしても、彼が「そんなことはない」と打ち消して、カッサンドラを愛する気持ちをアピールすればもしかしたら結果は変わっていたかもしれません。 また、アポロンがもう少し懐の大きい神様であったなら、ここまでひどいことにはならなかったでしょう。
いずれにしても、帰る国も頼れる人も、そして純潔すらも失ったカッサンドラには、もはや幸せな未来は見えなかったかもしれませんね。