おしゃべり好きが招いた悲劇、エコー

エコーとは音が反響して返ってくる現象で、日本では山彦や木霊という言い方のほうがわかりやすいかもしれません。この語源になったのがエコーというギリシア神話に登場するニンフの一人で元々は木霊を擬人化させたものです。彼女には様々な逸話があります。

ゼウスの浮気の手助けをしたエコー

エコーはおしゃべり好きなニンフでした。ある時、ゼウスの浮気相手になった山のニンフたちを助けるためにエコーはゼウスの妻と長話をしました。これはゼウスに頼まれて行ったという話もあり、どちらにせよヘラは夫の浮気現場を抑えるのに失敗します。このことに怒ったヘラは怒りの矛先をエコーに向けました。その結果彼女はおしゃべりができないよう相手の話の末尾を繰り返すことしかできなくなったと言われています。

ナルキッソスへの恋

この話には続きがあります。エコーはその後ある少年に恋をします。その少年の名前はナルキッソスと言います。エコーは彼に近づきますが、ナルキッソスの言葉を返すことしかできないので次第にナルキッソスが彼女に退屈するようになり、エコーを見捨てました。このことを悲しんだエコーは姿を失い声だけが残って木霊になったと言われています。ちなみにこのナルキッソスはこのことで神の怒りを買い、他人を愛せなくさせ、自分のみを愛するようにさせたと言います。そして彼をある泉に呼び寄せます。そこで水を飲もうとした彼が見たのは美しい少年の顔でした。彼は水面に映る少年に恋をします。その少年こそ水面に映る自分と気づかず彼は水面に向けて口づけをしようとして水死しました。これが語源となったのがナルシストです。この時のナルキッソスの嘆きの声はそのままエコーの嘆きになったと言われています。

パンとエコー

この他にもエコーにまつわる話があります。それが羊飼いの神パンとの逸話です。足が羊で頭に山羊の角を持つ姿で描かれるパンですが彼も歌や踊りの上手なエコーに恋をします。しかしエコーは男性の恋を好まず求愛を断りました。それに腹をたてたパンは元々彼女の音楽の才能に嫉妬していた事もあって配下の羊飼いや山羊飼いを狂わせてエコーを襲わせました。結果彼女は八つ裂きにされてしまい、彼女の歌もバラバラにされてしまったのです。しかし彼女の体をガイアが隠してしまい、歌の節だけが残り、パンが笛を吹くたびに歌の節が木霊になって聞こえたためパンは怒ったと言われています。このような経緯で今も木霊になって聞こえるという話です。

この他にもパンとの間には子供がいたと言う話もあります。エコーとパンとの間の娘、イユンクスがいたとされ、彼女がゼウスに魔法をかけて河神イーナコスの娘イオへの恋心を板がせたと言う話があります。彼女はこれを知ったヘラの怒りを買い、アリスイという鳥の姿に変えられました。別の話ではイアンベーという娘がいたとされ、女神デメテルがハデスに誘拐された娘を探している際にイアンベーが女神を笑わせたと言います。

このような話はギリシア神話の古典には登場しないようでアレクサンドロス3世がもたらしたヘレニズム時代以降、つまり紀元前3世紀ごろに成立した話のようです。しかし、時代が進んでもヘラの嫉妬深さやゼウスの浮気癖は変わっていません。