「パパが世界一好き!」なエレクトラの復讐劇

ギリシア神話には、しばしば母と娘の争いや不仲が描かれています。
代表的なのがエレクトラの話。
彼女はトロイア戦争においてギリシア軍の総大将を務めたアガメムノーンと、その原因となった絶世の美女ヘレネの姉・クリュタイムネストラの娘で、後に「エレクトラ・コンプレックス」の語源ともなりました。
父は英雄、母は稀代の悪女。
そんなエレクトラの生涯は波乱に満ちたものでした。

母・クリュタイムネストラとの確執

エレクトラの父・アガメムノーンはアルゴスとミュケナイの王で、妻クリュタイムネストラとの間に一男二女をもうけます。
エレクトラと姉イピゲネイア、そして弟のオレステスです。
アガメムノーンはギリシア軍のために実の娘・イピゲネイアを生贄として捧げるよう要求され、父である以前に軍人である自分の立場を優先して苦渋の決断をします。 この結果、ギリシア軍は無事出撃することができ、戦いの末勝利を得るのですが、クリュタイムネストラは当然彼を許すことができません。
彼女はアガメムノーンにとっては従兄弟にあたる愛人のアイギストスと共謀して、凱旋した夫を暗殺してしまいます。アイギストスはミュケナイの実権を握るためにエレクトラとオレステスをも手にかけようとしますが、二人は何とか処刑だけは免れることができました。
そして、エレクトラは弟をこっそり王宮から逃がし、自らはアイギストスの監視の下、幽閉生活を送ります。
7年間にも及ぶ、虜囚にも等しい扱いを受けた彼女を支えたのは母への「復讐心」でした。

エレクトラ・コンプレックスとは

精神医学の分野で、「エディプス(オイディプス)・コンプレックス」と対を成すとして知られているのが「エレクトラ・コンプレックス」です。
父親に過剰なまでの思慕を抱き、母親をライバル視するばかりか、時にはその死すら願うようになるという幼児性欲の一つで、本能的なものとされています。
女の子が「パパのお嫁さんになる~」というアレですね。
その語源となったエレクトラは、父アガメムノーンに会ったことはほとんどありませんでしたが、崇拝に近い感情を抱いていました。
それだけに、姉が生贄になったとはいえ父の不在中にほかの男と懇ろになり、夫殺しを決行した母クリュタイムネストラを激しく憎悪するようになったであろうことは想像に難くありません

復讐とその後

20歳になったオレステスは、父アガメムノーンの敵を打つよう、デルポイの神託を授かりました。
それに従い、故郷に帰って父の墓に詣でたところで姉のエレクトラと再会し、姉弟は母とその愛人に復讐する手はずを整えます。
そして、オレステスと彼をかくまったストロピオス王の息子ピュラデースが実行犯としてアイギストスとクリュタイムネストラを殺害し、父の無念を晴らすのでした。
ところが、いくら父の敵とはいえ、実の母を殺したことはオレステスに多大なストレスを与えました。彼は狂気に陥り、女神アテナによって救われるまで家族への冒涜を罰する復讐の女神に追い回されることになります。
一方のエレクトラは、ピュラデースと恋に落ち、後に結婚しました。母の不義、父の暗殺、そして実の母への憎悪…こうした波乱万丈を経て、ようやくようやく普通の女性としての幸福を手に入れることができたのです。