英雄ヘラクレスと女たち

ゼウスをはじめ、ギリシアの男性神のほとんどは気に入った女性は即手に入れる、強引なまでのアプローチをおこないます。しかし、中には純粋でとても奥手な神もいました。冥府を支配する神として有名なハデスです。

「冥府の支配者」というイメージが強いせいか、恐ろしかったり策謀に長けていたりしますが、神話での性格は異なります。恐怖の象徴どころか、好きな女性を射止めるためにはどうすればいいかと迷うような人物です。

ひと目惚れし、ペルセポネを連れ去ったまではよかったが!?

冥府の神とされ、日本での知名度はゼウスやアポロンに勝るとも劣らないハデスですが、実は他の神々に比べてあまりエピソードがありません。また、たいていの場合は、オリンポス十二神には数えられないという不遇な神でもあります。

彼のエピソードで一番有名なものと言えば、後に妻になったペルセポネをめぐるものです。女性の扱いに慣れていないハデスが彼女を自分の妻とするまでの話は、いじらしさを感じるだけでなく聞く人の笑いを誘います。

ふたりの出会いはニューサという山地の野原でした。妖精と一緒に花をつんでいたペルセポネをぐうぜん見かけたハデスがひと目惚れし、妖精が離れたすきを狙って彼女を冥府へと連れ去るところから話ははじまります。

相手の父親に許可を求めたうえ、すぐには手を出さない奥手なハデス

他の神々でしたら、手に入れた娘と問答無用で交わるのですが、律儀なハデスはとりあえず自分の弟にして彼女の父でもあるゼウスに許可を求めにいきました。もちろん実の兄の頼みですから、彼はこころよく了承します。

ですが、ゼウスは許可する時に娘の母デメテルには一言も相談しなかったため、当然デメテルは激怒しました。さらにペルセポネもむりやり冥府に連れてこられたことで泣いており、ハデスはどうもできずに困り果ててしまいます。

しかもペルセポネは冥府にいる間、なにひとつ食べものを口にしませんでした。もうハデスには打つ手がなくなった時、天界から使者としてヘルメスがやって来て「地上に帰っていいと許可が出た」と彼女に伝えます。

ハデスの恋の行方は、結局神々の会議で決められることに

喜びのあまり、ペルセポネはついハデスからすすめられるままに食べものを口にしてしまいました。実は冥府には「食べものをふるまわれたひとは客人とみなされ、冥府にとどまらなければならない」という規則があったそうです。

ですから一時的には帰れるものの、ペルセポネはまた戻ってこなければなりません。そして、ついにゼウスや母デメテルをはじめ神々を巻き込んで、今回の件の落としどころについて考えるということになりました。

結果、ペルセポネは1年の3分の1のみハデスと暮らし、残りは地上や天界で過ごすということに決まったそうです。勇気を出して略奪婚におよんだのに、思い通りにできないあたりに、ハデスの内気さや奥手さが見て取れます。

こんな性格では、ハデスがもし今の世に生まれ変わったとしたらメンタル性のEDになっているかもしれませんね。とはいえ、現在はバイアグラなどのED治療薬があるので比較的治療しやすい病気になっていますから、あまり深刻になる必要はありませんが。