カオスが生んだ天地創造

ギリシア神話には世界創造の物語がいくつかありますが、もっともよく知られているのは、ヘシオドスが「神統記」に描いた、「カオス」が万物の始まりという物語です。カオスは「大きく口を開く」という意味の動詞からできた言葉で、全く何もない空間、空虚を意味します。何も存在しないけれど空間だけがある状態です。

宇宙の始まりは「神」か「カオス」か

他のギリシア神話では多少意味合いが変わり、オウィディウスの「変身物語」では、無秩序に諸要素が散らばる「混沌」(こんとん)という意味になっています。ヘブライの神話である「旧約聖書」や日本の神話でも、原初は「混沌」だったとしていて似ています。

中国の神話においても、原初は「天・地・闇・混沌」の入り混ざった「卵」が存在していて、そこから「盤古」(ばんこ)という創造神が誕生したことになっています。ただ、旧約聖書によれば「混沌」を作ったのは神であり、ギリシア神話ではカオスが神より先に存在しています。天地も神が想像したものではなく、自然発生的にできたと説明されていて、この点は中国や日本の神話と同じです。

カオスが次々と世界を作り出し、エロスも誕生させます

カオスの次に生まれたのは、大地「ガイア」と地底の奥底に渦巻く「タルタロス」(暗闇の最深部)。さらに、すべての神々のうちでも最も美しく、人間に四肢をそなえさせ心を惑わせる愛「エロス」が誕生します。宇宙誕生の始まりにできたものは、大地と地底とエロスだったということですので、ギリシア神話における「愛と性」がいかに重要だったのかがわかります。

ちなみに、「エロス」は女性と思われがちですが、男性の神様です。古代遺跡から発掘された「エロス」像には皆ペニスがついています。エロスはこの時点では「生殖」を意味する神ですが、のちの神話では美の女神「アフロディーテ」の息子ということになります。ギリシア神話はできた年代によって内容が異なり、相互に矛盾もあります。

カオスは次々と神々を産み、それとは別にガイアも単独で神を創り始めます。星空を散りばめた天空「ウラノス」、山々、大海原ポントスなどです。カオスが作ったものには、闇「エレポス」、夜「ニュクス」、明るさ「アイテル」、昼「ヘメラ」などがあります。こうして天、地、海ができあがりますが、この創造のプロセスで生まれた神々には、まだ人格はありません。

ギリシア神話においては、神より先に「カオス」というなにもない状態が存在し、そこで自然発生的に大地「ガイア」、地底の暗闇「タルタロス」、性愛「エロス」が生まれます。その後次々と神が誕生し、世界が創造されました。