恋のためなら弟も殺したプリンセス、メディア

ギリシア神話に登場する神々も人々も、みさかいなく何でもしてしまいます。人を恨むときには殺すほどに強く、人を愛するときにはどこまでも深く。そこが面白みでもあり、戯曲として演じられたり、数々の小説や芝居に模倣されたりしています。

メディア」は日本でもしばしば上演される戯曲で、神話の中の女性としては、最も知られている存在でしょう。ヘカテーの魔術を使える能力を持っていましたが、男性に溺れる傾向のある惚れっぽい女性でした。愛した相手のためにいちずに尽くすタイプだったのでしょう。

愛の逃避行のために弟を殺す

コルキスという国が、どこにあったのかはよくわかっていません。黒海の東の端の方ということですので、ギリシアからはかなり遠いところにあったと思われます。この国の王の娘だったメディアは、魔術の達人。薬を作ってさまざまな奇跡を起こすことができました。

ある日メディアはギリシアからやってきた美男子のイアソンと出会い、一目惚れをします。実はイアソンは、メディアの父コルキス王の持つ「金羊の毛皮」という宝を譲ってもらうために、船でやってきたのでした。恋の虜になったメディアは自分との結婚を条件に、イアソンに力を貸します。

自分の父がイアソンを殺そうとして行った策謀を魔術で防いだ上に、宝を守るドラゴンを薬で眠らせ、「金羊の毛皮」を奪って、彼とギリシアへ逃亡します。しかし、王に命じられた自分の弟に追われたため、しかたなく弟を八つ裂きにして、海にまいて逃げました。王は海に散らばる息子のなきがらを回収するために、追うことを諦めます。

夫の裏切りに腹を立てて、相手の女性を焼き殺す

しばらくは愛とセックスに溺れるふたりの甘い生活が続きますが、事情があってイアソンはコリントスの国に逃げなければならなくなります。ひとり残されたメディアは寂しくなり、イアソンのあとを追ってコリントスに向かいます。しかし、そこで自分の夫がコリントスのプリンセスと結婚することになっていることを知ります。

腹を立てたメディアは、コリントスの王女グラウケーに毒薬を塗った花嫁衣装をプレゼントします。それを王女が着たとたん、ドレスが燃え出し、王女も王も宮殿も燃え尽きました。嫉妬に狂えば、誰でも殺すという恐ろしい女性です。コリントスの遺跡には、このとき炎に包まれた王女グラウケーが飛び込んだと伝わる井戸があります。

コルキス王の娘メディアは、愛のために弟を殺し、嫉妬に狂って相手の女性も殺してしまうほどの、激しい愛の持ち主でした。