神様の夫婦喧嘩に巻き込まれて…テイレシアースの受難

ヘルマプロディートスは両性具有ですが、男と女の両方を体験させられた予言者もいます。
それがオウィディウスの「変身物語」やソポクレースの「オイディプス王」に登場するテイレシアース。
彼の人生もまた、ギリシアの神々に翻弄されたものでした。

テイレシアースが預言者となったわけ

テイレシアースはニンフのカリクローを母に持ってはいましたが、もともとは普通の男性で特別な能力は持ち合わせていませんでした。
それが、ギリシア神話の中でも最も有名な予言者となったのにはいくつかの説があります。
まず、アテナの沐浴するところを見てしまったために、その目を潰されたというもの。アテナに仕えていた母のカリクローが元に戻すよう懇願したものの叶えられず、その代わりに予言の力を与えられたのです。
アルテミスの沐浴を覗いて鹿に変えられたアクタイオーンなど、こうした話はギリシア神話ではよく見受けられますよね。

男と女、両方の性を知る男

もう一つはゼウスとヘラの言い争いに巻き込まれたという説。
その前に、テイレシアースが男女両方の性を得た理由をお話しましょう。
テイレシアースはある時、山中を歩いていて、二匹の蛇が交尾しているのを見つけました。軽い気持ちでその蛇を木の枝で打ったところ、彼はたちまち女性の体に変わってしまいました。 オウィディウスの「変身物語」によると、これはヘラによる懲らしめだったようですが、テイレシアースはその後9年間を女性として過ごしたそうです。 そして、再び以前と同じように交尾している蛇を打って男性に戻ったのだとか。 この特異な経験は、テイレシアースを大変な厄介事に巻き込むことになりました。 男→女→男という変遷だけでも充分大変なことなのですが、今度は神様絡み。 しかも当事者はゼウスとヘラという、ギリシア12神のトップです。 テイレシアースにはご愁傷様と言うしかありません。

あまりにも理不尽な罰

ゼウスとヘラは、ある時男女の性的快感の大きさの違いについて議論になりました。
ゼウスは女の方が快感が大きいとし、ヘラは逆に男だと主張して譲りませんでした。
そこで、二人の神はなぜか人間のテイレシアースに意見を求めようと相成ったのです。
そのわけは、彼が男性でありながら女性に変身したということを知っていたから。
テイレシアースは「男性の感じ方を1としたならば、女性はその10倍を得る」と答えました。
もしかしたら女性であった期間に、男性とのセックス経験があったのかもしれませんね。 でなければこんな具体的な返答はできないでしょう。
とにかく、結果的にヘラの怒りを買うこととなり(もはやお約束の展開ですね)、盲目にされたのですが、哀れに思ったゼウスによって予言の力を与えられました。 この一連の不幸ははっきり言ってとばっちりや八つ当たりの類ですよね。

テイレシアースはその後、高名な予言者として崇められます。
最も有名な「オイディプス王」では、主人公のオイディプスに「疫病と不作の原因は王にある」と告げ、自身の父親を殺してしまったことも占いによって見抜いています。 美少年ナルキッソスに「己の姿を知らずにいれば長生きできる」とも予言しました。
しかし、どれほど優れた力を持っていたとしても、そこに至るまでの経緯を知れば決して羨ましいとは思えないでしょう。